“GHz Interview47” Miyuki Omura

GHz Interview

The Third Movement、PRSPCT、HERESYといったハードコア・シーンで絶大な人気を誇るレーベルからシングル/EPをリリースし、Mokum RecordsのコンピレーションやSlave To Societyのリミックス・アルバムにも参加するなど、インダストリアル・ハードコアを中心に幅広いジャンルのリスナーから高い評価を受けているプロデューサー/DJ「Miyuki Omura」のインタビューを公開!
Miyuki Omuraさんの音楽的ルーツからハードコア・テクノとの出会い、インダストリアル・ハードコアに対する想いやデビュー作『Perfect Education』が生まれた背景など、興味深いお話を聞かせてくれました!

Miyuki Omura
https://t.co/T7ySxKSqir
2010 年より地元静岡、そしてイギリスを経て、現在都内を中心に国際的に活躍中のインダストリアルハードコア・テクノ DJ/プロデューサー。
活動当初から自身が目指すハードコアスタイルを摯実に突き詰めたDJプレイがアンダーグラウンド・ハードコアシーンで支持され、2022年にはDJ Promo率いるThe Third Movementから1st EP「Perfect Education」を発表。同年、オランダの老舗インダストリアルハードコア・イベント「Club r_AW」に出演を果たす。
2023年にはPRSPCT Recordingsより初の12″レコード「That’Me EP 」を発表。同レーベルが主催するインドア・フェスティバル PRSPCT XLのメインステージに抜擢され、数千人のクラウドをロックした。
硬質でエモーショナルなインダストリアルハードコアを主軸にメインストリーム~ミレニアム~UK ハードコア~ドラムンベース~テクノ~ブレイクコアの影響を消化して作られた彼女のトラックは、ダンスフロアの欲望を満たす完璧な作用をもたらしており、ハードコア・シーンを越えて様々なジャンルのDJ達に重宝され、世界中のクラブやフェスティバルでプレイされている。


Q. ご出身はどちらですか?どういった環境で育たれて音楽に出会われましたか?

生まれは静岡県静岡市です。中学時代は吹奏楽部に所属していて、低音楽器を担当していました。そこそこ強い学校だったので、厳しい指導を受けながら練習に取り組んでいました。あと一人で地元のライヴハウスに行ったりしていて、その頃はずっとバンド活動をやりたいと思っていました。でも私は暗い曲調のバンドが好きで、趣味が合う人が周りにいなかったので実現はしなかったです。田舎育ちなので、早く東京に行ってみたいと思ってました。

Q. クラブ・カルチャー/ダンスミュージックとの出会いはいつ頃でしょうか?

高校生の時です。原宿系ファッションが好きだったので、周りで中田ヤスタカとかエレクトロがすごく流行っていました。
その流れで友人に誘われて静岡のエレクトロとテクノのクラブイベントに行くことになり、すぐにハマりました。
その時のイベントでDJがプレイしていて印象に残った曲がToecutterのBest Party Everだったんです。

気に入った曲が偶然BreakcoreのProducerでした。笑

それまでライブハウスでバンドをみるのが好きでしたが、クラブは自分の好きなタイミングで踊ったり、人と話したり自由なところに惹かれました。みないといけない強制感がないので。
静岡のクラブで出会った人たちはみんな優しく話しやすくて、クラブはすごく居心地の良い場所だと思いました。

Q. ハードコア・テクノとの出会いはいつ頃ですか?

18歳くらいです。偶然都内のクラブイベントでDJ Kanonさんがガバをプレイしていて。
とにかく音が衝撃的すぎて、すごく興味が沸きました。話し掛けたらガバについて色々教えてもらいました。同時に静岡でもHardcoreを聴けるイベントがあるかもしれないと思いネットで検索して、静岡汚電横丁というイベントにたどり着き、Breakcoreもチェックするようになりました。

Q. DJとしての活動を始められたのはいつ頃からですか?当初はどういったジャンルをプレイされていましたか?

20歳くらいだと思います。最初からHardcore DJになろうと思い始めました。
その頃地元でガバを聴けるイベントが少なかったので、自分でやるしかないと思って。静岡のテクノやトランスのイベントでガバをプレイさせてもらい、経験を積ませていただきました。

初期の頃はオランダのMid-Town RecordsやDiscogs等でコンピを輸入して(ThunderdomeやThe History Of Hardcore等)Early HardcoreからHappy Hardcoreまで幅広く聴きながら自分にフィットするスタイルを探しました。
東京ではDJ Kanonさんが最初に声を掛けてくれて、初めて新宿でDJをさせてもらいました。それから徐々に知り合いが増え、静岡から東京に拠点を移し、頻繁にプレイさせていただくようになりました。当時私の周りではデジタルよりヴァイナルでプレイをする方が多かったので、自分は最新のHardcoreが聴けるということを強みにして、Millennium Hardcore(当時のMainstream)を中心にプレイするようになったのですが、次第にもっとロングMix出来る楽曲でDJをしたいと思うようになり、ミニマルな構成のIndustrial Hardcoreをプレイするようになりました。

Q. Miyuki Omuraさんはインダストリアル・ハードコアのDJ/プロデューサーとして活躍されています。ご自身の視点からインダストリアル・ハードコアの定義とその魅力について教えていただけますか

Industrial HardcoreのDJをするようになったのは2011-12年頃だと思います。Negative AのSpitefulに衝撃を受けて、本格的に移行した気がします。

Millennium期は暗いサウンドが流行っていて、Mainstream HardcoreとIndustrial Hardcoreをセットで聴くことは一般的でした。
今ではめずらしいですが、ふつうにIndustrial HardcoreがHardtunesのTop10に入っていたり。Industrial Hardcoreの魅力は、Hardcoreのサブジャンルの中で最もクリエイティビティを発揮できるジャンルだと私は思っています。BPMの幅が広く、一般的には暗くて、ミニマルなスタイルを指すと思いますが、アグレッシヴなものや、エクスペリメンタル、メロディックな曲調等、多様性に富んでいます。Industrial Hardcoreをクリエイトする上で1番大切なことはダンスフロアでの機能性はもちろん、1番は曲の世界観(コンセプトの徹底)、と独自のサウンドの確立だと思っています。

今欧州でHardtechnoがすごく流行っていて、EDMのような規模感のイベントがたくさんあります。中にはほぼIndustrial Hardcoreと区別がつかない曲もあり興味深いですね。先月オランダに行った時、友人からIndustrial HardcoreじゃなくてHardtechno DJと言った方がブッキングが増えるよと言われたりしました。笑 それでも自分はIndustrial Hardcoreに拘りたいと思っていて。2025年はIndustrialが再燃する予感がするので、頑張らないと..。

10月に来日したTrippedは若手Industrial Hardtechno Producerの曲を自身のMadback Recordsから発表していて、世界観とクオリティを維持しながらトレンドも取り入れています。私もMadbackから作品を出すことが決まっているので、今準備しているところです。

Q. 影響を受けたハードコア・プロデューサーは?

沢山いますが、DJ Promo(Rude Awakening), Dep Affect, Broken Rules, Tymon, Angel, Sei2ure, The Outside Agency, The DJ Producer, Deathmachineなど。もっと挙げたいのですがキリがないので..。いつか現役で活動をしている方々とコラボしたりRemixをしていただくのが目標です。
Industrial Hardcoreはニッチなジャンルですが、Gemeinschaft of Hardcore様のコンピに参加したり、RoughSketchさんの曲をRemixさせていただいたりと、徐々に国内での交流が増えてとてもありがたいです。今年の5月に宮崎に移住したのですが、需要があれば九州、関西方面のイベントでDJもしてみたいです。

Q. イギリスに滞在されていた時期があるとのことですが、イギリスでの生活はどのようなものでしたか?

YMSビザで2015年〜2017年の2年間ロンドンに住んでいました。最初の半年はアルバイトをしながら語学学校に行きました。
現地では自分に合う仕事を見つけることに苦労しました。日本食レストランはすぐに働けるのですが、最低賃金で体力的にキツかったですね。あと、ガラパゴス携帯を使っていたのでその時代の写真はあんまり持ってないです。

Q. イギリス滞在時にはスクワット・パーティーに頻繁に出向かれていたそうですが、通常のクラブ・イベントやRAVEとスクワット・パーティーの違う部分とはなんでしょうか?

どんな人でも劣等感を抱くことなく、音楽を楽しめるのが魅力です。
経済的余裕がない人も参加できますし、人種差別を受ける心配も少ないです。具体的な場所は知らされず、少ない情報を頼りに会場を探すのもワクワクしました。私はPokora Sound Systemのイベントには必ず参加してましたね。BreakcoreとHardcoreが聴けて楽しかったです。おそらく質の悪いイベントもあるかと思いますので、これはあくまで私の体験談です。

Q. Miyuki Omuraさんは2022年にデビューシングル『Perfect Education』をオランダの老舗ハードコア・レーベル「The Third Movement」からリリースしました。楽曲のテーマやリリースされるまでに至る過程を教えてください。

DJを初めてから数年後、作曲に興味が湧きCubaseを購入してトライしてみたのですが挫折してしまいました。当時は作曲の重要性を感じておらず、好きな曲がたくさんあるし、楽しくDJできればいいと思っていて。
だけど、トレンドが変わって2017年以降は自分好みのHardcoreが一気に少なくなったのと、ロンドンから帰国したばかりで引越しや転職活動でかなり忙しく、DJをする機会が減りました。一時期は辞めようと思っていましたが、たしか2019年に遊びに行ったDominator FestivalでFiendのDJプレイをみてからやっぱりHardcoreが好きだと実感して、もう一度本腰を入れて続けてみようと思ったんです。でも、ブランクがあると中々DJをする機会に恵まれなくて。 時代と共にHardcoreの定義も変化して、既存の曲で自己表現をすることに限界を感じました。この状況でDJを続けるにはオリジナル曲を作るしかないと思い、本格的に取り組むことにしました。

Perfect Education EPは完成まですごく時間がかかりました。トレンドを気にせず自分が好きなHardcoreを世に放ちたくて。最終的に、Promoにデモをおくり反応をいただき、出そうと言ってくれました。

Q. 同年、The Third Movementが運営するクラブ・イベント「Club r_AW」にRude AwakeningやArmageddon Projectと共に出演されましたが、「Club r_AW」はどういったイベントでしたか?

シングルを出した後、DJ Promoから直接Club r_AWに誘っていただき出演することが決まりました。実はお客さんとして2013年のClub r_AWファイナル回に参加してます。Industrial Hardcoreが好きだったら終わる前に絶対に行かなくてはと思い1人で行きました。
(その後復活したのですが..。)

ヘッズからしたら錚々たるメンツが出演している伝説的なイベントなので本当に信じられませんでした。

出演後は自分の価値観が本当に変わりました。
まず、自分の代表曲でフロアを沸かしたいと思ったことと、お客さんはHardcoreの思想とかを気にせずに楽しんでほしいと思うようになりました。

Q. 2023年11月にPRSPCT Recordingsから12″レコード『That’s Me』がリリースされましたが、どういった経緯で今作は作られたのでしょうか?収録曲「Awkward」はインダストリアル・ハードコアからハード・テクノ・シーンでもヘヴィープレイされていますが、この曲がクロスオーバーしたのはなぜだと思われますか?

まず最初にThe Music Makerを作りました。PRSPCTに向けて制作をしていたわけではなく、完成したらどこかにデモを投げてみよう、Club r_AW出演の時に誰かに渡せたらいいな..くらいふんわりしてました。
2022年にオランダに行った時ご縁があり、PRSPCT Radioに招待していただいたので、その時にThe Music MakerをプレイしたらThrasherから『これは誰の曲だ?』と聞かれたので『私のUnreleasedだよ』と言うと『デモをおくってくれ』と言われました。その時はお世辞だと思っていたのですが、翌日もう一度彼らのオフィスに行く用事があり、その時念押ししてリマインドされたので、これは本気なんだと思いすぐにおくりました。

その後日本に帰国し、スマホを開くとThrasherから曲の感想が届いており、ヴァイナルで出そうと書いてありました。本当に信じられませんでした。
それからすぐにThat’s MeとAwkwardの制作に入りました。
並行して日本で9月にDJ HiddenとSinister Soulsを招いてPRSPCT 20周年イベントを企画していたのと、12月のPRSPCT XLでの出演が決まったので、9月にPre-orderを出して11月に発売することになりました。発表まで細かく調整してくれたStefan ZMKには本当に感謝しています。(彼は当時ディレクションを担当してました。)

現在AwkwardはHardtechnoの大規模なイベントでプレイされているようですが、偶然今のトレンドにフィットしたんだと思います。
自分の表現したいスタイルが、居場所を問わず受け入れてもらえたら嬉しいです。

Q. DJプレイにおいて重要視していることはなんですか?ハードコア・テクノというジャンルを扱う上で大事にしていることはありますか?

文脈や一貫性を大事にしながら、最新の要素を取り入れます。

Q. 今後さらに日本のハードコア・シーンが良い方向に向かう為にアーティスト/レーベル、リスナーに出来る事があるとすればそれはなんだと思われますか?

自分の経験から学んだノウハウやコネクションを新しい人へ継承していくことが大事だと思います。

Q. 今後のスケジュールを教えてください。

明日、11月16日(土)にCircus TokyoでDJをします。Prototypes World Tour!日本全国からIndustrial/CrossbreedのDJ/Producerが集まるレアなイベント!
あと3月にUKに行きます。

Q. 最後に読者の方にメッセージを

創作活動をしている方で、自分の居場所がないと感じることがあったとしても、好きでやり続けていたら必ず良いことがあると思います。それは日本じゃなくても良いと思うんです。自分のスタイルがハマる場所を探しながら、継続してみて下さい。あと、待つだけでなく、自分から行動を起こすとチャンスが訪れると思います。