“GHz Interview46” Karnage

GHz Interview

伝統的なダブステップ・サウンドを軸にインダストリアル、ダブ、ノイズ、ハードコアの要素を深く浸みこませたオルタナティブなベース・ミュージックを展開させているDJ/プロデューサー「Karnage」のインタビューを公開!

ダブステップとの出会いからアメリカでの音楽活動、Rider Shafiqueとの合作や先日Nocturnal Technologyからリリースされた新作『Dystopian Synthesis』についてなど、興味深いお話を沢山聞かせてくれました。

Karnageさんの音楽はダブステップ/ベースミュージック・ファンだけではなく、ポスト・メタル/ハードコアやインダストリアル・ミュージックといったアグレッシブで実験的な音楽が好きな方にも確実に刺さる硬派でディープなものなので、こちらの記事で紹介している音源からまずはチェックして聴いてみてください!

karnage
https://soundcloud.com/karnagejp
2006年からアメリカのミシガン州デトロイトに在住し、クラブミュージックを身近なものとして認識しながら育つ。2011年ごろからダブステップを中心に本格的に楽曲制作を始動し、デトロイトでDatsWotsUp!というベースミュージックを中心としたアメリカ国内外のアーティストを招くマンスリーパーティのレジデントとして運営に関わりながら活動の幅を広げていった。
2015年に帰国し、自身の曲を中心としたDJセットを行っており、国内ではBack To Chillなどのイベントに出演。アメリカ、ヨーロッパでのギグも積極的に行っており、The Star Festival(京都)、Outlook Festival(クロアチア)といったフェスティバルにも出演した。制作した楽曲はRinse FM, Kiss FMなどのラジオ局を中心に国内外のDJからサポートを受けており、国外のレーベル“Infernal Sounds,” “Sentry Records” などから積極的にデジタル、バイナルを問わずにリリースしている。
2018年に盟友Dayzeroとの自主レーベル、Vomitspitを本格始動させ,2020年には自身初のアルバムをUKのMC、Rider Shafiqueと共にリリース。2021年からはARKHAM、BASE、D-SETO、東海喰種、呂布カルマなどといった国内アーティストに向けた楽曲提供、共同制作を行い始める。


Q. ご出身はどちらですか?どういった環境で育たれて音楽に興味を持たれましたか?

生まれは愛知県の岡崎市で、小学校の4年生の時に名古屋市に引っ越しました。幼少期時代の思い出はサッカーをひたすらやっていたことしかないですね。

Q.アメリカのデトロイトに滞在されていたそうですが、デトロイトでの生活はどのようなものでしたか?アメリカでの生活はKarnageさんの人生観/音楽感にどのような影響を与えたと思いますか?

中学2年の時に親の転勤でデトロイト近郊に引っ越しました。 20分運転すればデトロイトのダウンタウンまで行けるようなロケーションです。英語が理解できない状況の中地元の高校に通いだしたのですが、サッカーや好きな音楽のおかげですぐ溶け込んで3年ほどで英語をマスターできました。
エレクトロニックミュージックやハードコア、メタルなどは大好きでずっと聞いていたのですが、高校2年生の時にデトロイトの多彩なミュージックシーンを体感してから音楽が自分のやりたい事だと感じました。高校卒業後は親だけが日本に帰国し、僕自身はアメリカの大学に通い一人暮らしを始めました。そこからデトロイトでパーティの開催や本格的な活動をKarnageとして始めました。

Q. Karnageさんの音楽やビジュアル・イメージからはメタルの影響が感じられますが、実際にメタルには影響を受けられていますか?

今も昔も一番好きな音楽のジャンルはハードコアやメタル、グラインドコアなどのジャンルです。デトロイトに住んでいるときはローカルのThe Black Dahlia Murderというバンドが好きでよくライブに行っていました。ダブステップを2008年頃に作り出そうと決めたときもダブステップにメタル感を感じたからです。バンドを始めようとはなぜか思わなかったですね。一人でなにかやりたいみたいな気持ちだったのを覚えています。

Q. Karnageさんはダブステップのプロデューサー/DJとして認識されていますが、ダブステップの存在を知ったのはいつ頃でしょうか?ダブステップのどんなところに魅力を感じましたか?

ダブステップを聞く前はエレクトロニックミュージックやハードコア、メタルを中心にいろいろな音楽を聴いていました。DJ SpookyやAutechreが好きでした。ダブステップに出会ったきっかけはDeep MediからリリースされたGoth-Trad「Cut End」です。2007-2008年頃だったと記憶しています。確かどこかのインターネットラジオで聞いたんですよね。ジャンルとして認識したのはその時だったと記憶しています。ダブステップのハーフで刻むビートのスペースやベースのパワーの中に感じるかすかなメタル感にはまりましたね。

Q. DJ/プロデューサーとしてのキャリアをスタートさせたのはいつ頃からでしょうか?

2008年頃です。ダブステップにはまってからはDubstep Forumなどで色々と調べてリリースされていない自分や友達の曲を現場でかけるというカルチャーがものすごくかっこいいと思い真剣に曲作りを始めました。2012年頃から自分のDJセットでかけようと思う曲を作ることができるようになってきて、2013年にデジタルで最初のリリースをしました。

Q. デトロイトでDatsWotsUp!というパーティーをオーガナイズされていたとのことですが、どういった経緯でこのパーティーは始まったのでしょうか?
DatsWotsUp!にはどういったアーティストが出演されていましたか?

2011年にJon CalicoというデトロイトのDJに誘ってもらいました。彼にずっと曲を送っていて、それをきっかけにDatsWotsUp!にレジデントとして加入しました。DatsWotsUp!ではほぼ毎月、海外国内からダブステップやグライム、DnBなどのDJ/プロデューサーをホストしていました。
出てくれたアーティストの一部ですが、The Bug、Pinch、Youngsta、Hatcha、Goth-Trad、Coki、J:Kenzo、Truthなど、たくさんのアーティストに出演してもらいました。僕が加入してから日本に帰国するまで五年間、ほぼ毎月ゲストを呼んでDatsWotsUp!を開催しました。僕が日本に帰国してからもDatsWotsUp!は続いていましたが、4年前にJonが亡くなり終了しました。彼は僕の人生においてのメンターであり親友でした。

Q. Karnageさんが滞在されていた時のアメリカのダブステップ・シーンはどういった状況でしたか?アメリカのダブステップ・シーンのユニークな部分とはどんなところでしょうか?

2010年くらいだと記憶しているのですが、Skrillexが出てきた時のアメリカのシーンはすごかったです。ダブステップという単語がフライヤーに入っていれば平日でも200-300人はデトロイトでは当たり前でした。2011-2012年辺りくらいにはリスナーは明確に俗にいうBrostepとDubstepは違うものという見方をしていたと思います。DatsWotsUp!がクルーとしてプッシュしていたUKサウンドを好きな人はアメリカで流行っているダブステップのサウンドが好きなお客さんとは別のお客さんでしたね。

2013-2014頃にはダブステップはアメリカの中ではオーバーグラウンドなジャンルとして認識されていたと思います。でも、UKのサウンドはその中には入っておらず別物とアメリカでは認識されていました。僕はKryptic MindsやGantz、Goth-Trad、Commodoなどが大好きだったのでダブステップは流行っている認識はあったのですが周りの友達とは話が合いませんでした。今は逆にアメリカではUKよりのミニマルなサウンドのダブステップも同じように流行ってるイメージなので、時間の経過とともにシーンの変化を常々感じます。

Q. 日本に戻られてからはどういった活動をされていましたか?

2015年に日本に戻ってからもダブステップを作り続けて色々なヨーロッパのレーベルからリリースさせてもらいました。国内の色々なパーティにお呼びしてもらったり、北米やヨーロッパをツアーしたりクロアチアのOutlook Festivalに出演させてもらったりと素晴らしい経験をさせてもらいました。
ダブステップ事態は好きだったのですが、2020年に始まったCovidの被害により海外に行くことができなくなり、色々と自分の中での生活や価値観なども変わりました。そのころから140BPMのダブステップしか作らなかった自分の中で色々と変化があり、色々なBPMやクラブユースなどを考えていない自由な曲も作ろうという考えに変わりました。

Q. 2018年にDayzeroさんと共にレーベル「Vomitspit」を始められています。Vomitspitを立ち上げた経緯とレーベル・コンセプトについて教えてください。

自分たちが好きにいつでもリリースをできるプラットフォームが必要だと考えVomitspitは始まりました。色々なプロデューサーが未発表の曲を沢山送ってくれるようになったというのも経緯の一つです。ダブステップを主軸にハイクオリティの面白い音楽を国内レーベルとしてリリースしようというのがコンセプトです。

Q. KarnageさんはイギリスのMC/詩人Rider Shafiqueとシングル『Realise』『Haul & Pull / Survival』、アルバム『Facing Inner Struggle』を発表されています。Rider Shafiqueとはどのようにして出会い楽曲制作を行うことになったのですか?リリックのテーマやアイディアはどのように共有されていたのでしょうか?

Rider ShafiqueとはDisc Shop Zeroの飯島直樹さんが引き合わせてくれました。今の僕の活動に飯島さんは物凄く大きく影響を与えてくれた方です。本当に感謝しています。
Riderとは最初に「Realise」を作成したのですが、RiderがIshan Soundと名古屋に来た時にDJ MITSUさんのSigma Sounds Studioで録音しました。ほとんどの曲は僕がインストビートを作ってRiderがリリックを乗せるというプロセスで作っています。「Haul & Pull」だけは別のビートでボーカルをとってそのボーカルにはまるように曲を組み立てるというプロセスで作りました。『Facing Inner Struggle』は僕がインストとしてのアルバムを完成させてからRiderがボーカルを乗せるという方法をとりました。リリックなどは基本的にRiderに任せています。Riderは感性がすごく良くて曲の雰囲気を読みとる能力がすごいと思います。


Q. 日本のラッパーBASEとの共作アルバム『Despised』を2021年に発表されましたが、今作が生まれた背景について教えてください。

BASEさんとの出会いは確か僕がライブで見てかっこいいと思って曲を渡したことが最初だったと思います。ヒップホップやトラップの雰囲気があるベースミュージックを使った日本語ラップのアルバムを作ろうというコンセプトで始まりました。僕がビートを作ってひたすらベースさんに送り、気に入った曲でレックをするという感じで制作は進んでいきました。

Q. 楽曲制作のプロセスと使用されている機材について教えてください。

基本的にスタジオモニターを使用して作ります。スピーカーはAdam A7xでサブウーファーはAdam Sub10 Mk2を使っています。使っているDAWは始めたころからableton Liveです。昔はすべてPCの中で作っていましたが、最近は最初のアイディアをハードウェアを使って作ることなどが多いです。Soma LaboratoryのPulsar-23やLyra-8などを使うことが多いです。基本的に楽曲はベースラインかリードのメロディ、メインとなるアイディアから作ります。

Q. Karnageさんの音楽にはベースが重要な役割を果たしていますが、ベースを作るときに重要視していることや拘りなどはありますか?

必ずというわけではないですが、ベースラインがあるかないかを意識しています。基本的にワンノートのベースラインとかは使わずにダブのベースラインのように動きがある方が好みです。基本的に曲のバランスはベースの音量を中心として考えています。

Q. 音楽制作においてどういったことからインスピレーションを受けていますか?

最近はほかの芸術作品からインスピレーションを受けることが多いです。映画、絵画、写真、漫画やゲームまで。ダブステップだけを作っているときはかなり変化したと思います。

Q. Nocturnal Technologyからアルバム『Dystopian Synthesis』を発表されましたが、今作にはどういったコンセプトやテーマが込められているのでしょうか?

今回のアルバムは初めて色々なbpmの曲を収録したアルバムです。コンセプトは弐瓶勉さん著作のBLAME!という漫画です。この漫画は僕が大好きな漫画であり、親友のJonも大好きな漫画だったのでこの世界観を自分の音で音楽にしてみようというコンセプトで作りました。音のテーマとしてはDystopia, Dubとインダストリアルです。

Q. 『Dystopian Synthesis』にフィーチャリングされているMarshall Applewhiteとはどんなアーティストなのでしょうか?どのようにしてコラボレーションは行われましたか?

Marshall Applewhiteはデトロイト時代に僕が所属していたクルーのDatsWotsUp!のVJです。もう10年以上の付き合いになります。変名がたくさんあるアーティストでOktored, Cocky Balboaなどとしても活動しています。今年に入ってからSNSでやり取りしながら10曲以上一緒に作り、コンセプトに合いそうなものを選んだ感じです。

Q. 『Dystopian Synthesis』収録曲で特に思い入れのある曲はどれですか?

Marshall Applewhiteとの共作のSilicon Lifeです。個人的には一番ユニークで面白い曲だと思ってます。

Q. KarnageさんはDJだけではなく、ライブセットも披露されていますが、ライブセットはどのような内容のものになっているのでしょうか?

Dub, industiral, noiseなどいろいろなジャンルが混ざったダブワイズセットという感じです。基本的にDJでかけることを考えずに作った内容の曲などをインプロなどを混ぜてダブミックスしています。

Q. 現在のダブステップについて、Karnageさんはどのように想われていますか?注目しているアーティストやレーベルはありますか?

最近はそこまでダブステップの最新リリースを追いかけているわけではないですが、CommodoやHeadlandは物凄く面白い曲を作っていると思います。

Q. これからのアーティスト活動において目指していることや挑戦してみたいことはありますか?

色々なバンドやアーティストとコラボレーションしたいです。名古屋でabentisと開催しているCyberpoolというイベントももっと色々と実験をしながら精力的に力を入れていきたいです。

Q. 今後のスケジュールを教えてください。

来年にはもう一枚アルバムが出る予定です。今までの集大成になっていると思います。