Stazma The Junglechristによるモジュラーシンセ解説(初級編)

5 Tips, Breakcore特集

今年リリースしたアルバム『Shapeshifter』と『Fluorhydrique EP』でブレイクコア・シーンを飛び越えて世界中の電子音楽好き達から絶賛され、モジュラーシンセ界隈でも高い評価を受けているStazma The Junglechristにモジュラーシンセについてのインタビューを決行!

モジュラーシンセやアナログ機材の視聴動画やパフォーマンス動画を定期的に公開しており、それらを使った重厚で深みのある電子音を使った楽曲で人気のStazma。Repeat Eater名義では更にアナログ機材にフォーカスした作品とライブパフォーマンスを行っており、彼のYouTubeチャンネルには多数のジャムセッションの模様がアップされています。最近ではableton liveでのブレイクビーツやライブパフォーマンスに活用出来るテクニックも動画で説明するなど、初心者から上級者まで様々なジャンルのクリエイターがプロダクションの参考にしているStazmaに、このインタビューでは初心者の為のモジュラーシンセの選び方や基本的な知識などをお聞きしました。

Stazmaのアルバム『Shapeshifter』の収録曲をベースに説明してくれており、ブレイクコアやブレインダンス系のクリエイターやファンは特に参考になるのではないでしょうか。『Shapeshifter』を聴きながら読み進めて頂ければ、更に理解度が増す内容となっています。
モジュラーシンセに興味はあるけど、何から始めるべきか、もしくは既に始められている方も参考になる事が多く、非常に読み応えのあるインタビューとなりました。



Q.
まず最初に、モジュラーシンセサイザーを使えば何が出来るのでしょうか?

何でも出来る!勿論、どのモジュールを選ぶかにもよるけど、これは本当だよ。市販のクローンやクローンに近いモジュールをたくさん使って、カルト的なヴィンテージ・アナログシンセ(Sh-101 / MS-20 / Minimoog)を自作再現することも出来る。また、現存するサウンドへのエフェクトとして使う為の超最先端なデジタル信号処理システムだけでなく、その間の全てのものも設計する。中にはモジュールでいっぱいの巨大な壁を作って、最終的には電子音楽のスタジオにしてしまう人もいれば、僕みたいに幾つかの違ったシステムを単一のインストゥルメントとして使うのを好む人もいて、通常のシンセサイザーよりもっと深く相互作用を生み出すことが出来る。選択するフォーマットによっても変わってくるよ。最近で一番多いのはEurorackだけど、もっと古いフォームファクタのBuchla、MU、Sergeなどもあって、今でも販売されて使われているし、設計もされている。最終的には自分次第だよ。
今言ったように、僕は幾つかの違ったシステムがある方が好きで、ほとんどの場合、それぞれが単独でインストゥルメントとして使われている。アルバム ”Shapeshifter” ではこのシステム全部を使ったよ。

オールドスクールなMake Noise社のShared System:これには僕の好きなシーケンサーRenéが搭載されていて、変わってはいるが音楽フレーズのあるものがとても簡単に作れる(例えば、SolariumWrongのイントロテーマ)。Pressure Pointsを4コードキーボードとして使うのも大好きだ。曲が流れている間に耳で1つずつチューニングして、調子はほぼ外れているが、不快感を与えるほど完全に外れてはいないスイートスポット(音を聴く時の最適な位置)を探すようにしている(僕がCompu1Solariumでストリングサウンドをプレイした方法)。

The West Coast Lab:これの大部分はVerbos Electronicsシステムで、Buchlaの設計に大きな発想を得たMake Noise社とIntellijel社のモジュールで増音されている。いつかBuchlaを手に入れたいけど、現実的には遥かに安いEurorackフォーマットで出来るだけ近づけようと思っている。自然な音にかなり近いからFMパーカッションによく使っているよ(SternやPsevでこういうサウンドが聴ける)。それと、Make Noise社のPressure Pointなどは、タッチプレートを使ってプレイしている。タッチプレートの表面に触れる指の面積によって、好きなようにコントロールが出来る(僕の場合は主に音量、ウェーブシェイピング、フィルター)。Two of CupsTritonで聴くことが出来る最高に奇妙なゴツゴツしたベースサウンドも出すし、Glimpsesのイントロで唯一使われているインストゥルメントだ。

Megatlantis:主にIntellijel社のモジュールを中心に構築した僕の「スーパーSH-101」タイプのシンセで、フィルターはRolandのヴィンテージものにかなり近いよ。SH-101のIntellijelクローンであるAtlantisにちなんでMegatlantisと呼んでいるんだ。いつもはAbletonのmidiを使ってシーケンスをする(例えばSternで)、それかAnalog FourやKeystepのようなCVシーケンサーを使う。主にベースライン、アシッド、FM音源などに使っているよ。Intellijel社のRubiconには僕が気に入っているオシレーターもある。

Random Source社Serge – Mantra:これはシンセの中で僕が最後に大金をつぎ込んだものだよ。原子力発電所と同じようなものだから、シンセシスを根本から見直す必要がある。アナログのままでありながら、全てのモジュールはパッチをどう適用して設定するかによって、全く異なるタスクを実行することができる。すごく生々しく、変わった特徴のある音も出す。(Serge – Mantraは)Two of CupsSolariumの2曲にしか使っていないと思う。これを作る前には持っていなかったからね。

セミモジュラー: 2台のセミモジュラーシンセも使っている。MoogとGrandmotherでは、主にファットなリースベースを作る。Make Noise 0-Coastでは、主にメタリックなパーカッション(例えばPsev)を作る、サブベース用の頼りになるシンセだよ。”Shapeshifter”全体に使ってきたし、これを手に入れてからは多分全ての曲に使ったと思うよ。

Q.
自分に合ったモジュラーの選び方は?実際に触ってみてから購入した方が良いのでしょうか?

さて、ここからが難しいところだ。特に現在は何百ものメーカーがあって、それぞれが同じように最高なモジュールを作っている。詳しく説明している動画が沢山あるし、自分が目をつけているモジュールのサウンドや機能についてYouTubeでチェックするのは良いスタートだと思うよ(僕自身もAlgorythmikの友人Ericと、シンセ・デモ専用のYouTube チャンネルWired Brainをやっている)。YouTubeを見るだけでは、物理的な方法で自分がどう反応するかは分からないけどね。それとインターフェイスはとても重要だよ。例をあげると、僕はVerbos Electronicsが大好きで、それは他のモジュールよりずっと大きくてツマミを操作するスペースがあるからなんだ。何でもかんでも全て小さくしようとする会社のモジュールを使うのは好きじゃない。だけど、これもまた好みの問題だよね。
もし都会に住んでいて、実際に音出しして試せるミュージックショップがあれば、試してみるといいよ。店員は大抵すごく親切で選ぶのを助けてくれるよ。Reaktor Block / VCV Rackなどのソフトフェア・モジュラーから始めてみるのもいいと思う。少なくともパッチを慎重に始めるにはいいかもしれない、自分には全く向いていないと気づくかもしれないけどね(笑)。

本格的に始めるとなったら、まずはケースと電源を買う必要がある。種類も価格も幅広く様々だけど、電源にはケチらない方がいい。モジュールの作動(大抵はオシレーター)に影響することがあるから、電池が切れることがないように必要以上に強力な電源を買うことを勧めるよ。
ここからまた色々な方法がある。僕みたいに、始める時点で予算が限られているなら、モジュールは1つずつ買って、それをじっくりと使ってみる。それからまた新しいものを買っていく。すでに持っているもので相互作用をチェックして、システムが完全になるまでこのプロセスを繰り返すといい。中には、ケースいっぱいのモジュールやメーカーからの既製品(Doepfer A-100 Basic System、Make Noise Shared System、Erica Black Systemなど)を好む人もいるけどね。これは僕だけがそう思うのかもしれないけど、最初からオプションが多すぎるとちょっと無理があると思うんだ。モジュラーの経験が全くない場合は少しずつ始めていく方がいいけど、Reaktorでパッチを何年もやってきたなら最初からフルで揃えてもいいだろう。もっといいのは、セミモジュラーシンセを買うことから始めて、好みによってEurorackモジュールで増やしていくことだ。

Q.
モジュラーを買った後は何をすべきですか?他にどんなパーツを買うべきでしょうか?

1つ手に入れたら、それをとことん使いまくる!普通の楽器を練習するのと似ているけど、パッチを頻繁にやっていないと始めた時にすぐ集中力を失って、訳が分からなくなってしまう。こういったインストゥルメントの使い方は沢山あるよ。後で録音して使うサウンドを丁寧にデザインすることが出来る(僕はこの方法で大量のサウンドバンクを作り上げる)。単にこれに詰め込むことも出来るし、アウトプットを録音して、録音したものにトラックを組み立てていく(実際、Solarium 、Two Of Cups、Wrongで起こったこと)。Midi to CV converterがあれば、Midiを通して正確にシーケンスが出来る(Arturia社のKeystepは安価でシーケンサーとアルペジエーター内臓の最高なキーボードだ)。大きいシステムか、それぞれ異なるものを少し持っているなら、それを使ってトラック全体を組み立てることが出来る。例えば、僕のアルバム ”Shapeshifter” の最後の曲 ”End…” は、僕のモジュラー全てを使って制作したんだよ。それぞれのモジュールが1つのサウンドを出すが、それぞれがコントロール信号をもう1つのモジュールへ送っていたから、1つのサウンドの展開が別のサウンドに影響を与えていたということなんだ。生活環境みたいなものだね。これが、モジュラーシンセが「オーガニック」と呼ばれることが多い理由だと思う。

それと、モジュラー本体の周りに必要なギアについて、知っておいた方がいいことが幾つかある。例えば、モジュラーシンセ・モジュールの出力レベルは、標準のラインレベルよりもっと高いから、サウンドカードやアンプへ直接送る時は十分な注意が必要だよ。一番いいのは、PAD付きのDI boxなどのごく普通のシグナルコンバータか、モジュラーレベルをラインへ変換するモジュールを手に入れることだ。(このモジュラーの中にはヘッドフォンを直接接続できるものもあって、他のインターフェイスは必要なく直接システムで再生することができる)
モジュールのスペースを節約したい場合は、ディレイやリバーブなどの外部エフェクトをDAWやストンプボックスから使うことが出来る。だけど、いつもとは違うシグナルでモジュレーション(変調)できるモジュラーエフェクトモジュールでプレイするのも楽しいよ。前にも言ったように、コンピューターで作業していて、コンピューターからラックへ情報を送信したい場合、Midi to CV converterがあると便利だ。オーディオ・インターフェイスには、Ableton CV Toolsのようなプログラムと組み合わせてCVを直接送信することも出来るけど、DCカップリング対応の出力があるか確認する必要がある。

Q.
モジュラーを学ぶのに最適な方法とはなんですか?

どれが一番いい方法かは分からないけど、僕はマニュアルを読んだり、YouTubeでチュートリアルを見たり、Reaktorで色々試したりして全て独学で学んだよ。速く学ぶためにマスタークラスへ通ったり、インターンを選ぶ人もいるよね。僕は1年以上前から、リヨンにあるフランスのカルト的なレーベルJarring Effectの本社で、モジュラーシンセでサウンドシンセシスを教えている。全てLes Escales Buissonnièresという会社の主催だよ。モジュラーシンセの使い方を教えるのはすごく楽しいし、この仕事が大好きだ。

Q.
モジュラーシンセを完璧に使いこなせるまでにどの位の時間がかかりますか?

何百年もかかると思うよ(笑)。モジュールを出したり入れたり取り替えることが出来るEurorackは特にだよ。実際、ラック内のモジュールの順序や場所を変えるだけでも、今までどう使ってきたか色々と考え直すことができる。尽きることがないよ。
モジュールの楽しいところは、全くコントロールしなくてもいいことだと思う。一部のモジュールは、ただのカオスなジェネレーターであって、色んな場所にプラグを差し込んだり抜いたりして、どんなサウンドになるか聴いてから好きか嫌いか決めるだけのものもある。完璧な例は、70年代を象徴するようなBuchlaモジュールの名前(60年代かもしれない)で、モデル265別名The Source of Uncertainty、他のことをしている間に、どんなパラメーターでも好きなように作動するよう設計されている。このアイディアを基にしたモジュールが大量にあって、ランダムさをコントロールする量も様々だ。物事をもう少しオーガニックにする為に、こういったランダムジェネレーターをたくさん使っているよ。モジュレーションをかける時、大幅に変えるとすぐにつまらなくなってしまうものを活気があるサウンドにすることが出来るんだ。

翻訳:Megumi

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