レーベル特集② / Timesig

レーベル特集

レーベル特集第二弾は、ブレイクコア・シーンの帝王であり近年はモジュラーシンセを使った実験的な作品でモジュラー界隈でも脚光を浴びている奇才Venetian Snaresが2010年にPlanet-Muの中に立ち上げたレーベル「Timesig」を紹介。
リリース数はまだ少ないですが、Venetian Snaresの作品をメインにオリジナリティのある優れた電子音楽を発表しており、Venetian Snaresと同じく独特な雰囲気とサウンドを持った個性的なアーティストのアルバムをリリースしています。今回はTimesigが発表してきた作品と近年のVenetian Snaresの動向を纏めてみました。


Timesigは2010年にレーベル第一弾リリースとなるVenetian Snares(以降VS)のアルバム『My So-Called Life』を発表。このアルバムは『Detrimentalist』や『Pink+Green』で聴けるRAVE色の強いカラフルでカオティックなジャングルやブレイクビーツに『Cavalcade Of Glee And Dadaist Happy Hardcore Pom Poms』と『Hospitality』に通じるバロックやクラシック調のシンフォニックなメロディとを合わせたVSのそれまでのキャリアを総括するような内容となった1枚。名曲「Hajnal」の続編や「Ultraviolent Junglist」、「Posers And Camera Phones」といったファンの間でも人気の高い曲が収録されていてVSの魅力が凝縮されたアルバムとなっていて数あるVSのアルバムでも入門編に最適です。

同時期にTimesigからはVSと元Red Hot Chili Peppersのギタリストでありソロミュージシャンとしても活動しているJohn Frusciante、SKM-ETR名義でVSのリミックスもしていたカナダの実験音楽家/ノイズミュージシャンのChris McDonaldによるSpeed Dealer Momsのレコードも発表。シンセサイザーやドラムマシーンなどのアナログ機材を使った実験的な作品となっていて、後にVSが発表するモジュラーシンセを使った作品への伏線を感じさせます。

2012年にVSは4曲入りEP『Fool The Detector』をTimesigからリリースしましたが、その後数年間は作品のリリースが無く、世界中のファンがVSの作品リリースを心待ちにしていた2016年にモジュラーシンセを大幅に取り入れたアルバム『Traditional Synthesizer Music」を発表。実験的でありながらも独特なビートやプログレッシブな展開、そしてVSらしいストレンジで神妙なメロディやフレーズは健在。
アルバムのツアーでもモジュラーシンセを使ったライブパフォーマンスをおこない新たなVSのスタイルを披露しました。




同年にはTimesigからSublight RecordsやPlanet MuからアルバムをリリースしていたアメリカのIDM/エレクトロニカ・アーティスト「Datach’i」の久々となるアルバム『System』を発表。元々コアなファンが多かったDatach’iですが、このアルバムでは彼の進化したサウンドを披露してさらに多くのファンを獲得。今作でも深みのある作りこまれた電子音が広がるメロウなスタイルでIDMやエレクトロニカ、シンセサイザー・ミュージックなどのマニアックな電子音楽好き達を魅了しました。
翌年にはVSとのユニット「Poemss」でも活動しているカナダのフューチャーポップ系アーティスト「Joanne Pollock」の1stアルバムを発表し、Timesigのレーベルカラーも色濃くなっていきました。


そして、今年5月にU2やPeter Gabrielのプロデューサーとしても御馴染みのミュージシャン「Daniel Lanois」とのコラボレーション・アルバム『Venetian Snares x Daniel Lanois』を発表。リリース前から話題となり期待も大きかったですが、Daniel LanoisのメロディセンスとVSのカオティックなプログラミングとが完璧に融合した素晴らしく美しいポップでドリーミーなアルバムを完成させました。
『Songs About My Cats』や『Winter In The Belly Of A Snake』、そして『printf<“shiver in eternal darkness/n”>;』といった初期VSの暴力的なグリッチやブレイクビーツを連想させるカオティックな側面も浮き出ていて昔からのファンも満足する作品となっています。

狂気的なサウンドと天才的なプログラミングを軸とした唯一無二の世界観を持ちながらも常に進化した作品を発表し続ける本物の奇才であるVSとTimesigからは今後も目が離せません。