デジタルハードコア、テラーコア、スピードコア、ブレイクコア、エクストラトーンといった過激なダンスミュージックを中心に展開するCoakira氏主宰のレーベル「Fujimi Industry Records」。その設立10周年を記念した特集記事を公開!
本記事ではCoakira氏がFujimi Industry Recordsのカタログの中から特に思い入れのある10作品をセレクトし、それぞれの作品について詳しく語ってもらいました。制作のプロセスやリリースに至るまでの経緯、アートワークのコンセプトなど、アーティストとして、そしてレーベルオーナーとしての視点から作品の背景を語ってくださりました。
Fujimi Industry Recordsとは?
2015年3月にCoakiraが自身の音源をリリースするために開設しました。
当初はCoakiraのプライベートレーベルだったのですが、2016年よりコンピレーションや他アーティストの単独音源もリリースを開始しました。今年2025年で10年目を迎え、200作を超える作品をリリースしています。
主にデジタルハードコア、スピードコア、テラーコア、インダストリアルハードコア、エクストラトーンなどハードコアテクノの中でも特に癖の強いアーティストを取り扱っています。
これまでに国内はもとより、チェコ、ドイツ、ポーランド、フランス、カナダ、ニカラグア、ブラジル、ロシア等々世界中のアーティストの作品をリリースしています。
FIR10選
今回、Fujimi Industry Records(以下FIR)の10周年を記念してFIRの過去作の中から10作品を選んで解説を書いて欲しい、との有難い御依頼を梅ヶ谷さんよりいただいたので独断と偏見で選ばせていただきました!
なんだかんだで200作以上リリースしているので10選というのも中々に難しかったのですが、今回は作品そのものの人気や売り上げよりも、その後に繋がる新しい試みや新たな出会い等、制作過程で特に思い出に残っているものを中心に選ばせていただきました。
ではではご覧ください!
(以下敬称略)
01 FIR001 – Coakira「Suicidegirl.jp」
2015/03/17リリース
まずは何といっても10年前にリリースされたFIRの第一作目!
この頃、私は「AKIRADEATH」というデジタルハードコア・ユニットをメインに活動していたのですが、相方の神崎君がアイドル関連のお仕事のためAKIRADEATHの活動が中々難しくなってきた時期で、私の方も暇が出来たので「Coakira」という名義でのソロ活動を開始し、「DJKurara」の主宰するネットレーベル「 RADIO ACTIVE HARDCORE」やポーランドの「SKRD!」というテラーコア・スピードコアのレーベルのコンピレーションを中心に楽曲提供をしてたのですが、提供した曲が結構溜まってきたので自分でアルバムをリリースしよう思って始めたのがFIR立ち上げのきっかけでした。当初はBandcampのみの活動でしたが、それまで自分でレーベルやるという発想は全くなかったのでアーティストに直でお金が入ってくるBandcampのシステムは理想的でした。
このアルバムに入ってる曲の殆どがRADIO ACTIVEかSKRDに提供した曲で、当時の自分の流行りだったエクストラトーン(BPM1000以上のエクストリームなスピードコア)が多いです。当時はまだAKIRADEATHの片手間という感覚だったのでAKIRADEATHでもやらないようなエクストリーム過ぎる曲をやろうという意欲がエクストラトーンという形に現れています。
アートワークはFIR立ち上げ以前に「Maddest Chikindam」からリリースしたCoakiraのソロアルバム「ZombiN8or」のアートワークを制作していただいたイラストレーターで現在は漫画家としても活躍されている「ラクトいちご」に既存の絵の使用許可をいただきました。ラクいち先生にはこの後も度々描下ろしで描いていただいたりと現在もお付き合いいただいてます。(10年目にして先日初めて直接お会いしました!)
ノイジーでエクストリームな曲が多くて、決して聴きやすいアルバムではないのですがFIRの歴史を知る上では欠かせない一作!
02 FIR019 – V.A.「IMMORTAL HARDCORE!!!! VOL.2 -EXTRAZONE-」
2016/08/07リリース
FIR立ち上げて約一年ぐらいは自分の過去作品等をリリースするのみで他人の作品をリリースする予定はまったくなかったのですが、2016年に「MYCIAA」というフランスのエレクトロパンクバンドが日本盤CDをリリースするレーベルを探していて、人伝で私の所にデモが届いて聴いたみた所、とても良かったのでウチで日本盤をリリースすることになりました。ただいきなり日本で全く無名のMYCIAAのアルバムをリリースしても販売が難しいという判断で、それならその前にMYCIAAの宣伝も兼ねて私の好きなアーティストを色々呼んでコンピレーションを作ろうと思って企画したのが「IMMORTAL HARDCORE」シリーズの始まりでした。
一作目は2016年2月にリリースされて「OZIGIRI」「RedOgre」「DJKurara」「QURELESS」「撲殺少女工房」などAKIRADEATH時代からのレーベルメイトや「UTEROZZZAAA」等ライブで観て個人的に好きだったアーティストに参加していただきました。そして、このVOL.2は同年8月にリリースしたシリーズ第二弾で、ここでまたまたエクストラトーンのみという暴挙にでました(笑
普段エクストラトーン作っていないアーティストにもこのアルバムでのみあえてエクストラトーン作ってもらうというレアなアルバムです。今やFIRの常連アーティストの一人となっていて現在までエクストラトーン一筋で制作している「monoqlom」もこのアルバムからFIR初参加となりました。本場ヨーロッパのエクストラトーン・シーンから「SKRD!」オーナーの「Loffciamcore」と「EXTRATONE Records」オーナーの「7!cHO」が参加しているのも特筆すべき所ですね。
エクストラトーンと一口に言っても制作する人の感性が様々でかなりバラエティーに富んだ作りとなっているので、かなり楽しめる一作となってます。
元々がジャンルで縛れない個性派のアーティストを集めてるので特定のジャンルで縛るのは余り意味がないと感じて、このVOL.2以降の「IMMORTAL HARDCORE」は基本ハードコアであればなんでもありとなってます。ただエクストラトーンに関しては拘りがあるので後に「Extraterrestrial Hardcore 」というエクストラトーンに特化した別シリーズのコンピを作ってます。
「IMMORTAL HARDCORE」シリーズ、「Extraterrestrial Hardcore 」シリーズ共にアートワークは「TSV」に制作していただいてます。毎回こちらの予想の斜め上をいくバイオレンスとユーモアの溢れる素晴らしいアートワークを制作していただいてます。
03 FIR028 – TAROLIN「花惑いEP」
2017/4/30リリース
上記の「IMMORTAL HARDCORE VOL.1」をリリースしてからデモ送ってくれる人も増えて、徐々に自分以外のアーティストの単独作品のリリースも増えてきたのですが、そんな中で2016年10月にリリースした「RYUWAVE」の「爆速電子音楽紀行」というアルバムにリミックス参加していた「TAROLIN」の作品を個人的に非常に気に入って珍しくこちらから「是非ウチからリリースしてほしい」とアプローチして制作したのがこのEPです。
TAROLINはオリエンタルな作風や懐古的な雰囲気など私が大好きな要素が詰まっている上に楽曲のポップス性やハードコアなのに高音質な所など、私が絶対的に持ち合わせていないモノを持っているのも心惹かれた部分だと思います。チップチューンやブレイクコアを基調とした現代的なリズムや音使いの中にYMOやOMODAKAを彷彿させるメロディーセンスが光る、いつ聴いてもワクワクさせてくれる作品です!
04 FIR050 – xi’an「OVERDOSE」
2018/06/08リリース
仙台を中心に活動している「X14N」の1stEP。当時は「xi’an」という名義でした(読み方はシアンで同じ)
AKIRADEATH、OZIGIRI、QURELESSの系譜のスピードコアにスクリームが入るスタイルのデジタルハードコアを継承してくれている貴重な存在。
デジタルハードコアやスピードコア以外にもマキナ、ヒップホップ、エクストラトーン、更にはかつてm1dy氏が提唱していたスラッシュキックも作っているという真の酔狂者。(スラッシュキックを今作ってるのはおそらく彼ぐらいだと思います。m1dyさんも喜んでました!)
様々なジャンルをミックスしてキャッチーで耳馴染みの良いトラックにエクストラトーン等混ぜ合わせるテクニックは非常に上手く、本人曰く「キワモノジャンルの世界へのドアマン」とのことですが、まさにハードコアテクノの新しい扉を開くアーティストの一人だと思います。このEPリリースしたときはまだ18歳のリアルティーンエイジライオットでした。とにかく暴れたい放題暴れてるトラックとシャウトが気持ち良いです!!
05 FIR057 – 犬殺INUKORO「Dog Killer」
2018/10/27リリース
犬殺-INUKORO-(イヌコロ)は私Coakiraと札幌を代表するハードコアテクノ・ユニット「臨界モスキー党」で活動する「Np犬田彦」によるスピードコア・パンク・ユニット。
このユニット結成のきっかけは前述のCoakiraのソロアルバム「ZombiN8or」で犬田彦さんに一曲ゲストボーカルで参加してもらったのが最初で、丁度その頃「臨海モスキー党」も「AKIRADEATH」も活動休止中だったので正式にユニットとしてやってみようかという話になって結成したのが始まりでした。
犬田彦の「犬」と核(コア)殺(キラ)の「殺」が合体して「犬殺(イヌコロ)」と名付けました。二人共通のルーツであるナゴムレコードやスターリン等の80年代の日本のインディーズバンドの持っていたアングラな雰囲気とスピードコア・デジタルハードコアの暴力的スピード感をミックスした世界観が特徴。
ラストに犬殺二人が敬愛する「筋肉少女帯」のナゴム時代の名曲「猿の左手 象牙の塔」のカバーを収録しているのも注目ポイント!
06 FIR091 – V.A.「Killympic 2020」
2020/07/27リリース
2020年の東京オリンピック(実際にはコロナで1年延期して2021年開催でしたが)のパロディー的な企画で「最凶最悪の殺人者を決める殺人オリンピック=キリンピック」と言う、とても物騒なコンセプトのコンピレーションアルバム。
丁度コロナの真っただ中に制作したので、世間の閉塞感を打ち破りたいという思いで作った勢いのあるコンピです。
参加ミュージシャンはIMMORTAL HARDCOREシリーズに参加してもらってる常連さんがほとんどで内容的にもIMMORTAL HARDCOREと遜色ない素晴らしい出来なのですが、企画ものとして出してしまったがために後々あまり聴かれていない不遇な作品。今思えばIMMORTAL HARDCOREのシリーズで副題を「Killimpic」にして出せば良かったと思ってます(苦笑
TSVによる超バイオレンスなアートワークも見物です!
「WUUUN」「鬼畜生」「RoughSkreamZ」などこのアルバムでしか聴けないアーティストも入ってるのでこれを機に是非皆さん聴いていただけたら嬉しいです。
07 FIR104 – Seifuku Yangire「Seifuku Yangire」
2021/03/14リリース
ドイツのテラーコア、スピードコア・プロデューサー「To Mega Therion」の別名義でエクストラトーンに特化したプロジェクト。前年にTo Mega Therion名義でリリースしたEP「GUROCORE」も名前の通りグロでブルータルなテラーコアで相当にヤバかったのですが、このEPは更にその上をいくトラック、アートワーク、アーティスト名とどれをとってもヤバい雰囲気の漂うFIRでも屈指の暗黒な作品。
ダークなアンビエンスに病んギレな日本語の台詞、そこに突っ込んでくる電動ドリルの如きエクストラトーンのキック連打が脳みそをかき回す恐怖のサウンドドラッグ!
本人のたっての希望でこの作品は限定でCDでもリリースしたのですが結構すぐに売り切れてしまいました。世界にはマニアが居るんだな~と感心しました!
08 FIR162 – Coakira「Gabbers Banquet」
2024/03/01リリース
昨年だしたCoakiraのシングルなんですが、それまでCoakiraの作品といえばテラーコア、スピードコアなど大体BPM200~1200ぐらいまでの速い曲中心だったのが、この曲は原点回帰とも言えるBPM170のオールドスクールなガバトラックで、それまで映画やアニメなどの映像作品からのサンプリングが多く、サンプリングが楽曲の方向性を決めてる部分もあったのですが、この曲はサンプリングに引っ張られない楽曲を目指して制作され、これ以降この路線での制作が増えていったのと、丁度この頃メタバースでのライブ活動も始めてメタバース用のアバターとして作ったイメージキャラクター「核殺子」が誕生してアートワークに登場したのもこの作品からでした。
そういった意味でCoakiraの現在の活動への流れを作ったエポックメイキングな作品がこのシングルでした。
最近のライブはこの辺のBPMのオールドスクールなガバから始まって最後BPM300ぐらいのテラーコアで終わるのが定番になってきてます。
09 FIR178 – V.A.「 Observer」
2024/07/12リリース
Coakiraのアートワークに作品を使用させていただいたのが縁で知り合いになったイラストレーター「KoTHa」の作品のひとつである「観察者」という絵に触発されて制作したコンピレーションアルバムです。
KoTHaさんの特徴的な「人類文明崩壊後の廃墟に残された少女のアンドロイド」の絵に感銘を受けて、その世界観にハマりそうなアーティストの皆さんに「ダークなハードコアテクノ」をリクエストして制作してもらいました。
インダストリアルハードコア、テラーコア、エクストラトーン等々ジャンルは様々ですが見事にダークな雰囲気で狙い通り「人類滅亡後の無人の廃墟で配信されつづけるサウンドトラック」といった雰囲気の終末観の漂うアルバムとなっています。
10 FIR193 – AKIRADEATH「Death Collection」
2024/10/27リリース
昨年8月に復活した「AKIRADEATH」の新作アルバム
復活した際のお話は以前GHzさんでインタビューしていただいたのでこちらも是非合わせてお読みいただけたらと思います。
https://ghz.tokyo/ghz-interview43-akiradeath/
当初の予定ではこの後、AKIRADEATH復活してライブ活動や新曲もやろうとういう話だったのですが、神崎君が仕事に育児に忙しくなって結局のところ今はまたまた休眠状態になってます(苦笑)
で、この「Death Collection」なのですが本来は新曲数曲と過去に単独リリースしていないコンピレーション収録曲で構成する予定だったのですが、残念ながら新曲の話は流れてしまったのでコンピ収録曲とリミックス数曲の特別盤となりました。ただこれまでサブスク配信してないコンピCDでしか聴けなかった曲と過去にリミックスしてもらって未リリースだった曲と更に新たに依頼したリミックスで構成されているので中々のボリュームになり、ある意味でベスト盤的な選曲となっています!
Maddest Chikindam時代のAKIRADEATHのアートワークは「GRID038」に描いていただいていたのですが、今回GRIDさんは多忙で受けていただけなかったので「さて誰にお願いするか?」となったときにピンときたのがハードコア界隈で超売れっ子イラストレーターの「無想りんね」でした。普段どちらかと言うと、カワイイ女の子のイラストのイメージが強いりんねさんですが元々メタル好きでハードコアな絵も沢山描いてるので安心してお願いしましたが、予想を超えるハードでかっこいいアートワークに仕上げていただきました!
りんねさんにFIRでお願いしたのは今回が初のようですが実は極初期、2016年にリリースしたRYUWAVEのアルバム「爆速電子音楽紀行」のアートワークはtac-t!s名義で活動していた時代のりんねさんでした。
AKIRADEATHでのライブ活動も神崎君次第ですがまた余裕できたら是非やりたいと思ってます!
https://fujimi.bandcamp.com/album/death-collection
と言った具合に10作選んでみましたが、まだまだ聴いて欲しい作品が沢山あるので是非レーベルのBandcamp等みていただけたらと思います、またリリースの最新情報は私のXやインスタでも随時ポストしてますのでこちらも是非チェックしていただけたらと思います。
https://lit.link/coakiradeath
最新ではレーベル発足10周年を記念したミックスアルバムなどリリースしてますので是非聴いてみて下さい!
ではでは、ここまで読んでいただいた皆様、貴重なお時間をありがとうございました!
Coakira