THIS IS DARKSIDE OF DRUM & BASS #1 ~HISTORY~

THIS IS DARKSIDE OF DRUM & BASS

INTRODUCTION
さながら夏休みの自由研究レポートを書いてる気分!どうもお初です。この度、MURDER CHANNELさんのお力添えあり、Hard Drum & Bassのあれこれを紹介する企画のライターを務めさせて頂くことになりました3×6です。今回主に取り扱うDarkstepというジャンルのDJやトラックを作ったりして活動しています。また、そういったジャンルの音楽を扱うクラブイベントの主催者をやってたりもしています。こうした活動を何年も続けているとその活動しているシーンのことを、一度総括して人に伝えることはできないだろうか?と考えるようになります。DJや曲をリリースするだけではなく、時には語り部となるのも良き音楽活動です。そういった機会を頂けた訳ですから今回はかなり力を入れて書かせて頂きました。その甲斐あってなんと一回ポッキリではありません、連載企画です!

第1回 Darkstepを中心としたHard DnBの歴史を追う。(今回)
第2回 具体的に活躍している(していた)アーティストとレーベルの紹介。
第3回 Darkstepジャンル外で、Dark / Hard DnBに関係あるお話。

というような感じで執筆させて頂く予定です。どうか最後までお付き合いください。
それでは張り切って行きましょー!


 

01 DnBの父、JUNGLEから話をはじめよう (DARKCORE編)

Hard Drum & Bass の歴史を語るにはまず Drum & Bass (以下DnB)の生い立ちから始めなくてはなりません。多くの文献で書されているように、DnB はレゲエの早回しから生まれたジャンル「Jungle」から生まれた音楽であるということはよく知られていることだと思います。ではどのような流れでDrum & Bassが生まれたのでしょうか?90年代前半、UKでJungleが流行ると、レゲエではおなじみのラガMCや裏ノリのカッティングギターを排除したUKナイズされたJungleも生み出されました。中でも無機質でダークなものはDarkcoreと呼ばれるようになりました。このムーブメントをレゲエから生まれた”Jungle”ではなくUKで生まれたオリジナルの音楽という意味を込めていつしか”Drum & Bass”と呼ぶようになりました。これがDnBの始まりです。この90年代前半、Drum & Bassというシーンが確立されるまでの間はUK JungleとDrum & Bassの線引きは曖昧で、DarkcoreはJungleのサブジャンルとは言われていますが、DnBのサブジャンルとしても捉えてもよいかもしれません。(※現在はHardcore Techno のサブジャンルにも”Darkcore”というかなり別の音楽が存在します。)

Tango & Ratty – Tales from the darkside

初期Happy Hardcoreに相対する音楽として存在したDarkcore。
レトロな音ながらも確かにホラー感のあるフレーズを聴くことができます。


 

TIPS: ○○STEPって?

Drum & Bassという音楽スタイルが広く認知され、音楽ジャンルとして定着し始めると様々な曲調、異なる方向性を持ったDnBが量産されるようになります。いつしかそういったトラックは曲調を指してTechstep(テッキーなDnB)、Jazzstep(ジャジーなDnB)、Darkstep(ダークなDnB)、Hardstep(ハードなDnB)等と称されるようになりました。何故○○Stepと言うのかというと、Stepとは均一でないリズムのノリを指し、よってテクノなら○○Techno ハウスなら○○House という要領で、非四つ打ちリズムの音楽の多くはよくこう称されました。(ちょっと誤解しやすいのが2stepとDubstepで、これらはGarageから派生した音楽でありDnBの文脈とはちょっと異なります。)最初は○○Stepと言っておけば曲調や雰囲気が通じるみたいなノリだったのかもしれません。この時点ではまだこれらの呼称がDrum & Bassのサブジャンルを形成していたとはいい難いです。多くのプロデューサーは、専門的に一つの方向性において曲を作っていた訳ではなく、ダークな曲の他にもジャジーな曲、トライバルな曲、スペーシーな曲と、Drum & Bassという枠の中でいろんな方向性を提示していました。そしてプロデューサーやDJ達はそれらを○○Stepと称することはあまり無く、全てをただ”Drum & Bass”と呼んでいました。彼らはあまりジャンルが細分化されることを好まず、DnBという音楽にそれだけリスペクトを以って発展的な可能性を信じていたのでしょう。

Goldie – Mother

Drum & Bass黄金期の最も有名なDark Drum & Bassです。
ダークさと激しさを兼ねたDarkstepと呼んでも差し支えない一曲ですね。


 

02 DRUM & BASS発展期! (TECHSTEP 編)

90年代後期になるとDnBはさらなる技術躍進を迎え、プロデューサーの数も次第に増えてきました。ベースサウンドにはモジュレーションがかったシンセティックな音が使われ、ドラムもオールドスクールなブレイクビ-ツ以外にもバリエーションが増え、ダークな曲はよりドープに、ハードな曲はよりパワフルになりました。名門レーベルTrouble on Vinylから派生した,
Hardstep/Techstepに特化したレーベルRenegade Hardwareもこの頃に生まれました。当時すでに老舗レーベルであったMoving ShadowやNo U Turnのリリースにも方向性の変化が見られます。トップアーティストのGoldieは自身の1時間を越える大作トラックを一層ダークにセルフリミックスした”Mother VIP”を発表、またEd RushがOpticalとタッグを組み、よりハードな路線へシフトしたこと等はDnBシーン全体にも影響を与えたことでしょう。この頃、Technical Itch, Dom & Roland, Bad Company(UK), Dylan, DieselboyといったダークかつテッキーなDnBをメインに作るプロデューサーも徐々に頭角を現してきました。彼らは有名レーベルからレコードをリリースし、名を売ると今度は自身のレーベルを設立し、音楽観を共有する仲間や若手プロデューサーを呼び込み、より先鋭的なトラックをたくさんリリースしました。この繰り返しが後のDarkstepやNeurofunkのシーンを形成していったというわけです。

Ed Rush & Optical – Funktion

後のNeurofunkの原型となったといわれる名曲です。
当時ではこの不気味に波打つようなベースサウンドはとても衝撃的でした。

Dom & Roland – Spirit Train

Techstepの時点で大分ダークなんですけど…と思われるかもしれません。
カッチカッチした機械的なノリ、インダストリアルミュージックのような硬い音もTechstepと呼ばれた由縁です。


 

03 DARKSTEP黄金時代!  (DARKSTEP編)

ダーク&ハードDnBが活発化するとUK以外の外国のアーティストの影響力も強くなり、全体で見ればかなり無国籍なシーンへと発展していきます。アメリカからはEvol IntentやGein, SPL, オランダからはNoisiaやBlack Sun Empire、ドイツからはPanacea等、すでに実力者であるプロデューサー達が合流し、同門又は近しいレーベルからリリースし合い、コラボトラックの制作やイベント等でも共演することによって、いよいよ今日DARKSTEPと呼ばれている音楽のシーンの誕生ということになります。このシーンの立役者であるTechnical ItchによるTech Itch Rec、DylanのFreak、PanaceaのPosition Chrome、DieselboyのHuman Imprint、RaidenのOffkeyといったレーベルが盛況で、さらにUk Hard DnBの名門レーベルとなったRenegade Hardwareが今まで以上にハードでエクストリームなDnBを発信すべくサブレーベル、Barcode Recordingsを設立。多くのプロデューサーがレーベル間を行き来し、ハードコアでエクスペリメンタルなトラックをたくさん生み出しました。特にDylanは元パートナーRobyn ChaosとともにTherapy Sessionsという特大Darkstep パーティーを主催、本拠地ロンドンからヨーロッパを中心に世界中で開催し大盛況となりました。実は一度、日本で開催されていたりもします!

Photek Productions – Baltimore (Tech Itch and Dylan Remix)

二大ダーク巨頭、Tech ItchとDylanがDnBスターPhotekを共作リミックス !
激しくもトリッキーなドラミングは現在のDarkstepにそのまま引き継がれています。

Kryptic Minds and Leon Switch – More Like You

ここまでくるとダークさも「邪悪」とか「極悪」といった言葉で形容できるようになります。
Deep Dubstepで有名なKryptic Mindsもこんな曲を作っていた時代がありました。


 

TIPS: DARKSTEPとNEUROFUNKってどこが違うの?

ここでDark DnBから一つの枝分かれがあります。Techstepがさらにハードに先鋭化するに当たって、ベースサウンドをさらに過激に歪曲させた、リズムに関しては至ってストレートなDnBと、アーメンビーツを激烈に鳴らしたブレイクコアのようなDnBと2種類が生まれました。前者はうねるベースサウンドとビートという特徴がFunk Musicを感じさせたということでNeurofunk、後者はそのままDarkstepと呼ばれDnBの極北的な位置づけのジャンルとなりました。ちなみに、よくDarkstepとNeurofunkの違いが解らないという疑問の声を良く頂くのですが、そのようなトラックメイキングの違いで捉えても良いのですが、実はいざ線引きしようとすると非常にシビアだったりします。音楽的なフォームの違いより、バックグラウンドや世界観の違いで捉えるという見方もあります。Darkstepは悪魔やシリアルキラー等オカルティックなビジュアルを使用することが多いのに対して、Neuroはサイバーパンクで近未来的な世界観のアートワークのEPのリリースが多いです。またDakstepは既存のスタイルに囚われない脱構築的でアンダーグラウンド志向な考え方があるのに対してNeurofunkはDnBを正当に発展、技術進化させたものという理念が強いのも特徴です。(もちろん例外なアーティスト、レーベルもありますし、どっちもやってるというアーティストもいます。

darkneuro
大雑把に違いをイメージで伝えるならこんな感じでしょうか…

Noisia – Block Control VIP

Neurofunkの頂点に君臨するユニットNoisia。
このジャンルで鎬を削るプロデューサー達は極めて高い、ベースシンセのサウンドメイク能力を持っています。


 

04 もはやDRUM & BASSとは呼べない!(SKULLSTEP編)

Current Value, Donny, Limewax… Darkstepという音楽を知っている方はきっとこの名前を聞いたことがあるでしょう。00年代中期、彼らがTech Itch RecやFreak等のレーベルでリリースするようになると、そのあまりにも既存の概念を壊すような楽曲スタイルが一気にシーンから注目を浴びるようになりました。特にCurrent Valueの音楽はジャンルの枠を超えて評価され、Apex TwinがDJで彼の曲をプレイしたり、あのBjorkがトラックメーカー/リミキサーとして起用するまでに有名になりました。彼らが得意としたスネアを雑多に打ち鳴らしまくる激しいビートの曲はSkullstepと呼ばれ、この頃生み出された、スカーン!と金属的で響きのよいスネアの音はSkull Snareと呼ばれるようになり、多くの同業プロデューサーが影響を受けその音をマネようとしました。またCounterstrikeとのコラボ曲”Techno Is”は、ニューロティックなベースサウンドを排除し、主にサブベースとドラム、パーカッションループによって構成されるミニマルなHard DnB,”Technoid DnB”(またはTechno DnB)というジャンルを新たに生みました。とにかくCurrent Valueのシーンに与えた影響力は多大なもので、まさにシーンが引っくり返ったというべきものでした。

Limewax – Cat And The Hat

パタパタとスネアの配置をトリッキーにくみ上げた、激烈ながらもユーモラスなリズムのSkullstep。
何故Skullなのかは不明。この手のアーティストといえばドクロマークが目印だから?

Raiden & Current value – Scrapyard

いわゆるTechnoid / Techno-Dnbといわれるスタイルの曲。
ある意味ではSkullstepとは対極の音楽性。

Current Value – A New Life

これもうドラムンの原型留めてないでしょー!とツッコミを入れたくなる、へヴィメタルの2バスのようにキックを連打した強烈な一曲。
ここで鳴っている甲高い金属的なスネアの音がいわゆるスカルスネアです。


 

05 HARDCOREと異文化交流 (CROSSBREED編)

Current ValueやDonnyのおかげですっかりインダストリアルな音に染まったDarkstepシーンが次に起こしたムーブメントは他ジャンルとの融合でした。DarkstepプロデューサーのDJ HiddenとEye-DによるHardcore Technoユニット、The Outside AgencyがDarkstepとGabba / Hardcoreを融合させた新しい音楽スタイル”Crossbreed”を提唱しました。2つのシーンに影響力のあるプロデューサーが作った2つのジャンルのオイシイトコ取りをした音楽はすぐに絶賛され、瞬く間に多くのフォロワーを生みました。あまりに影響力が強かったため、そのままジャンルを転向するプロデューサー、反発するプロデューサーもいたほどです。DarkstepレーベルPRSPCTはこのスタイルにいち早く目をつけ、Drum & BassとHardcoreをクロスオーバーさせる方向性へシフト、ベースがオランダにあるという地の利も活かし、多くのDarkstep, Hardcore, Breakcoreプロデューサーを擁することで現在はナンバー1のエクストリームなハードダンスミュージックレーベルとして君臨しています。

The Outside Agency – Hours & Dreams

Crossbreed本舗、TOA。HardcoreみたいなDnBでもなく、DnBみたいなHardcoreでもなく、どっちも作れてその中間であることがオリジナルのCrossbreedの真髄。

Propaganda – Hardcore will never die

Crossbreed以前にもHardcoreを意識したDarkstepはいくつかありました。
これや他には、裏拍にキックが無い四つ打ちのようなリズムの”Cooh – Duuure”といった曲が有名です。


 

06 NOW THIS IS… (現在編)

一方Crossbreedへの転向をしなかったDarkstepプロデューサー達は一度枝分かれしたNeurofunkに再注目します。親日家でも有名なForbidden Societyは次第にベースサウンドに重きを置いたトラックをリリースするようになり、シーンの開拓者Current ValueはTechnoidとNeurofunkを融合させた一部では”Neurotech”と呼ばれるスタイルを開発しました。どちらかというとNeurofunkのほうがDnBの本流であったので、彼らの方向性のチェンジはよりメジャーな高みを目指すという意味でもありました。現在ではNoisiaやPhaceといったベテランプロデューサーとHybris, Mefjus, June Millerといった新鋭プロデューサーが合わさって、脱構築的かつ最先端な技術力で全く新しいタイプのNeurofunkが生まれ始めています。この、新しい”何か”が生まれそうな状況がアンダーグラウンドの垣根を越えて先見性のあるアーティストを引き付ける魅力なのかもしれません。

Current Value – Sonic Barrier

広まっているのか定着しているのか、いまいちピンとこないNeurotechですが、そのオリジナリティは圧倒的。
こんなビキビキしたベースサウンドは今までのNeurofunkにはありませんでした。

June Miller & Mefjus – Saus (Music Video)

これが現在のNeurofunkの最先端!強烈なベースサウンドはさることながら、ドラミングも変態的。
こういった大胆さはフォームに縛られないDarkstepに通ずるものも感じます。

第1回は以上、こんなかんじです。それではまた次回お会いしましょう。


WRITER PROFILE
Drum & Bass のプロデューサーにして日本唯一のHardcore DnB パーティー、“Sprout”のオーガナイザー。メタルコアバンドのヴォーカリストとして音楽活動をしていたが2004年からDrum & Bassの地に足を着け,現在の”3×6”の名義でプロデュース/DJ業を開始する。オリジナルトラックにはアニメやゲームからの サンプリングを使用したものが多く、ナードとドープの狭間の独特の世界観を持っている。海外のDarkstep/Crossbreedのアーティストとも親交があり、過去にCurrent Value, Counterstrike, DJ HIdden, Forbidden Societyといったトッププロデューサーを日本へ招聘、自身のパーティーに出演させるなどしている。近年の活動としては新たにレーベル”ICONOCLAST RECORDINGS”を始動。国内若手プロデューサを集めたコンピレーションアルバムや自身のEPをリリース、今後もレーベルを通してアンダーグラウンドダークミュージックシーンの発展に貢献していくだろう。

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アイキャッチ作: yuqwe.