“GHz Interview31” 2methyl

GHz Interview

今年7月にジャズにフォーカスした美しく幻想的なアルバム『Drowned​ ​Landscapes』をMurder Channelから発表したフランスの電子音楽家「2methyl」の本邦初公開となるインタビューを公開!

2methylはブレイクコアの名門レーベル「Peace Off」のダブステップ/グライム系に特化したサブレーベル「Ruff」から2methylbulbe1ol名義でデビュー・シングルをリリースして以来、Ad NoiseamやAgnost1k Recordingsからのアルバムや、日本のベースミュージック・アーティストのMiiiへのリミックス提供、EnduserやLowrollerとのコラボレーションなど、ジャンルを飛び越えた活動で注目を集めています。
クラシックやポストロック/メタル、ジャズにダブステップ、ドラムンベース/クロスブリード/ニューロファンク、IDM、グリッチといった要素を優れたプログラミング技術を用いて組み合わせた芸術的な美しさを誇る楽曲の数々で人々を魅了し続けている2methylの音楽的なルーツから貴重な作曲プロセス、最新アルバム『Drowned​ ​Landscapes』の制作についてなどお聞きしました。
本日、『Drowned​ ​Landscapes』のプロモーション・ミックスも公開されましたので合わせてコチラもチェックを!

Q. 音楽に興味を持ったのはいつ頃からですか?あなたのホームタウンには、どのような音楽シーンがありましたか?

僕はフランス・ブルゴーニュ地方の小さな村の出身で、子供の頃はやることがあまりなくて、サッカーをするか楽器を弾く位だった。ギターを始めたのは母のギターが家にあったからなんだ。10歳でクラシック・ギターを習い始めて、ティーンエイジャーになってからエレキ・ギターに変えたよ。
仕事の都合で10年前にフランス東部にある街、ブザンソンに住み始めた。小さな街だけど、良いロック/メタルバンドが沢山いるし、エレクトロニック・ミュージックのシーンも活気があるよ。(例えば、Nao、Horskh、Tetra Hydro K)

Q. ご自身で音楽制作を始められたのはいつからですか?

エレクトロニック・ミュージックの制作を始めたのは2006年からで、小さなグルーヴボックスのKorg Electribe Es-1サンプラーを中古で買ったんだ。まず、ギターを弾く為のバッキングトラックとしてドラムビートを作り、次にベースラインを追加して、他のハードウェアを組み込む方法をインターネットで検索し始めた。どちらかと言うと逆のプロセスで、ギアを学ぶことでエレクトロニック・ミュージックを知るようになった。これが2methylを始めたきっかけだよ。コンピューターに切り替える前の2年間はハードウェアだけで音楽制作をしていた。その方が便利だし安上がりだと思ったんだ。MIDIケーブルがそこら中にあって、制作中の曲のセットアップで、フロッピーディスクからファイルを読み込むのに10分かかっていた時代を今でも懐かしく思う。

Q. あなたはとても素晴らしい作曲家ですが、その作曲スキルはどの様にして培われたのでしょうか?

要は、努力だと思う。楽器を弾くのはあまり得意じゃないから、物事の仕組み、音楽理論、シンセシス、構造などを学ぶことに重点を置いている。25年間曲作りをしてきたから言えるけど、練習を重ねて細かいところに注意を払えば上達すると思うよ。

Q. あなたのデビュー・レコードは2010年にPeace OffのサブレーベルであるRuffからNiveau Zeroとのスプリットとして発表されました。Peace Offとはどの様にして出会いましたか?

当時は、ブレイクコアにハマっていた。ブレイクコアと言えばPeace Offだよね。僕の友人Rictus(スピードコアのMechakucha)に曲を送ったら気に入ってくれて、それを彼の友人であるRotatorに送ってくれたんだ。Rotatorとはリリースから2年後に初めて会ったよ。

Q. 2010年から2013年頃まではダブステップをメインにした作品を作られていましたが、あなたにとってダブステップの魅力とは何だったのでしょうか?その当時のフランスのダブステップ・シーンの状況を覚えていますか?

2010年、ダブステップはかなり目新しいもので、ベースが多くて異常なくらいにスローなこの音楽にすごく惹かれたよ。メタルの影響、インダストリアルなサウンド、ドラムンベースのサウンドデザインなど、自分の好きなものを取り入れて新しい分野を開拓するという斬新なジャンルだった。ダブステップ・シーンについてはよく知らないな。僕はDJではないし、全てのエレクトロニック・ミュージックが大好きな訳ではない。Niveau ZeroやZellerのような、僕と同じ感じで曲作りをするアーティストを知っているくらいだよ。

Q. 現在使用している機材は?曲を作るときは何から始めますか?

Renoiseをメインで使っている。ハードウェアを使うのを止めて、コンピューターに切り替えた時から使っているトラッカーだよ。インターフェイスは「煩わしい」ものかもしれないけど、すごく強力なツールだ。キーやノートの名前を見るのは好きだけど、ズームインやズームアウトに時間をかけるのは嫌い。スピーカーはEve Audio SC208を持っていたよ。曲作りにヘッドフォンはあまり使わない。ヘッドフォンで簡単に耳を騙すことは出来るけど、時々使い古したHD-25である部分をチェックすることはある。よく注意を払っていなかった音に集中してチェックする為、ヘッドフォンに切り替えることも必要だ。例えば、ベースが大きすぎる、ステレオイメージ(音像)が上手く出来ているか、違和感のあるレゾナンスなど。プラグインに関しては、Ohmnicide(ディストーション・プラグイン)、Massive、Serumをよく使っている。

Q. あなたのベース・サウンドは非常にユニークで芸術性が高いですが、どの様にして作られているのでしょうか?

シンセシスで作ることが多いよ。普段はいくつものレイヤーのサウンドを使って作業をしていて、各レイヤーには専用のエフェクトチェーンがついている。調整するのにすごく手間がかかるから、オートメーションを使うのはあまり好きじゃないんだ。自分で作ったベースにサンプルを混ぜてテクスチャーを加えるのが好きだよ。自分が好きな音を何でも投入して、おもしろいサウンドを見つけることが出来るよね。僕がプロデュースする音楽ではベースが重要だけど、いつもは雰囲気を出すことやエフェクトに沢山時間をかけていて、フロントベースの音と反応する他の音とのバランスを取るようにしている。「攻撃的」なベースサウンドというより、もっとコールアンドレスポンス(掛け合い)のあるシステムを作ることだ。

Q. 音楽制作において最も楽しいと感じる瞬間とは?

いつもは、下書きで苦労していたら全て削除して最初からやり直すから、新しい曲を作り始めて、上手く速くできた時が楽しいと感じる瞬間だよ。2番目に楽しいと思うことは、全部終わってから全てをしっかり微調整して時間をかけて編集することだ。それと、シンセサイザーや曲の色々な部分で、嬉しいハプニングが生まれた時も最高に感じる瞬間だよ。

Q. あなたの音楽にはポリティカルな要素や思想的な部分は反映されているのでしょうか?

それは考えたこともなかったな。今までに読んだ本に例えることが出来るなら、SF的な音楽を作るようにしているよ。それは大抵、少しディストピア的で抑圧的で壊れてしまったようなものだ。このノイズの裏にメッセージがあるかどうかは分からないけど、もっと記述的で誰もが心の中のイメージを解釈することが出来る。僕は政治や運動に関わっていないけど、かなり皮肉な人間だよ。この悲観的な状況は全て、大崩壊の前の警告と見なされる可能性があるから、皆が気づいてくれたらいいと思っている。でも、僕の場合は、ポップコーンを食べながら世界の終わりを見届けたいな。

Q. 若手クリエイターへのアドバイスがあれば教えてください。

最近では、ものすごい数のチュートリアル動画やVST(ヴァーチャル・スタジオ・テクノロジー)を利用出来て本当にすごいと思うし、あらゆる種類のデバイスで音楽制作が出来るようになったよね。音楽制作を始めるのは絶好のタイミングだ。僕から出来るアドバイスは、とにかく曲を完成させることだね。ミックスダウンが悪かろうが関係ないよ。上手くできた1つのループや格好いいイントロに囚われたらダメだ。アイディアを練って、すでに行ったことに結論を出すことによって多くのことを学べるのだと思う。

Q. 最新アルバム”Drowned Landscapes”のテーマは何ですか?

メインテーマは「海」。移り変わる幻影のような海のビジョン。それぞれの曲は、僕が表現したかった場所について触れている。海から遠い所に住んでいるから、航海、危険、希望を表すビジョンのようなものだ。

Q. “Drowned Landscapes”での、ジャズからロック的なアプローチまで幅広くカバーされた人間味のあるドラム・パートはどうやって作られたのですか?ドラム・パートは全てプログラミングなのでしょうか?

キックとスネアにテクスチャーを混ぜた、より「自然な響き」のドラムを除いて、全てのドラム・パートはEZ DRUMMERでプログラミングしたものだ。ほとんどの曲はシャッフルを加えた7/4拍子で作ったけど、やりがいのある作業だったよ。おもしろくなるようにドラム・パートにもっと「人間味」を出してみた。曲は変わらずドラム主体だけど、今回はもっと沢山の楽器を使って作曲しなければならなかった。実際、何か強い要素が必要になる普通のドラムンベースの曲を作るよりも簡単だったよ。

Q. アルバムにはTom Waits「Just The Right Bullets」 のカバーが収録されていますが、何故この曲をカバーされたのでしょうか?

Tom Waitsは本当に素晴らしいアーティストで、彼のアルバムはどれも最高だ。耳に残る覚えやすい音であったり、エクスペリメンタルだったりするけど、常に感情や刺激で溢れている。彼の’Rain Dogs’と‘Swordfish Trombone’の2枚のアルバム、特に使われている楽器(オルガン、マリンバ、グランドピアノなど)からは大きな影響を受けたよ。’Just The Rights Bullet’は、彼のアルバム‘The Black Rider’ からの大好きな曲だ。元々はRobert Wilsonが監督、William Burroughs共同執筆(夢のチーム!)の演劇‘The Black Rider’の為に書いたアルバムなんだ。このアルバムとYouTubeで見つけた演劇の動画からインスピレーションを受けて、オリジナルと他の曲の美学を融合させるためにベストを尽くしたよ。オリジナルを台無しにしないよう、僕にとって偉大なアーティストに敬意を表したかった。

Q. あなたが今までに体験した最もクレイジーなライブの思い出は?

それはもう沢山あったよ。最近では、昨年ロンドンでプレイした時の会場で、若者に人気のエリアにある空きビルで行われた「違法レイヴ」が一番クレイジーだった。最初ビルは空っぽだったけど、4時間後にはバーとダンスフロアが2つ出来て、3フロアにわたってパーティーが続いていたよ。

Q. 2020年、世界はコロナで大きく変わり始めていますが、これからの音楽業界はどうなっていくと思いますか?また、あなたの音楽にはどういった影響がありますか?

よく分からないな。現在は、ギグやクラブシーンにとって悪い状況で、全てが延期されているようだね。クラブがこの期間に収入無しで持ち堪えることが出来るかどうかは分からない。ロックダウンによってライブ配信が増えたことはいいよね。リスナー向けにライブチャットありの真新しいエネルギーを生み出すものになっていると思う。この期間は音楽制作に集中出来る機会でもあるから、この歴史的な出来事が起きている間に卓越した曲が作られてリリースされていくだろう。

Q. 今後のリリーススケジュールを教えてください。新たに挑戦したいことや目標はありますか?

テクノ系の曲を作り始めたよ。インダストリアルではあるけど、僕のいつもの曲にしたら詰め込み過ぎてない。ミニマルな素材での曲作りはけっこう大変だ。何度かフラッシュコアの曲作りにトライしたけど、満足のいくものが出来たことはない。いつか、高速ビートと雰囲気のあるサウンドスケープで、まともなEPをリリースしたいと思っている。

翻訳:Megumi